秋の名物をもう一つ。かぼちゃがお店に並ぶ頃になると、ドイツのパン屋さんにWeckmann(ベックマン)という人型をかたどったパンが登場します。シンプルな生地の他に、レーズンの入っているものや、パンの上にスライスアーモンドがたっぷりかかっているものもあり、全長は10センチから20センチとパン屋さんによって種類や大きさは様々。日ごろはかたいイメージのあるドイツのパンですが、このベックマンはお菓子パンに分類されているとおり、生地が甘めで食べやすく、たいていはお腹の上にパイプがのっているのが特徴です。
さて、このベックマンを見ると思い出すのは、三男がまだ低学年だった頃、毎年、学校でラタルネという提灯を作り、その中に豆電球の灯りをつけて、11月11日の聖マルチンの頃に教会で行われるマルチン祭の行列に参加したこと…。
この聖マルチンという人は西暦300年台のローマ帝国の軍人で、着る物がなく寒さに震える貧しい人たちに自分のマントを切って分け与えたという人物。現在の修道院の原型となるものをフランスに設立し、彼の推進した修道運動がその後のキリスト教活動に大きな影響を与えたと言われています。
そこでマルチン祭のこの日、もうすっかり日の暮れた夕方になると、マルチンの格好をして馬に乗った人を先頭に、子供たちが行列を作って教会を出発し、町内を歌いながら一周した後、マルチンのマントを切ってイベントは終了。子供たちは大きな紙袋をおみやげにもらうのですが、その中にりんごやみかん、殻付きのくるみやピーナツ、チョコレートなどのお菓子のほかに、大きなベックマンが必ず一つ、入っていました。
このベックマンが聖マルチンを模ったものかどうかは定かではありませんが、お腹の上にのっているパイプは、カトリック教会の司教様が持つ、長くて立派な杖から由来されており、どうやら宗教的な意味合いを色濃く持っているようです。ちなみにこのパイプは陶器でできているため、残念ながら食べることはできません(笑)。
そんなわけでこの季節になると、私もベックマンの形に似せてパンを焼きます。しかし私の作るベックマンはお砂糖の代わりにはちみつを加えた、はちみつ風味のベックマンです。この生地は、はちみつの他に、いつもより多めのバターを加えるので、打ち粉をすることもなく、分量通りのままで不思議と生地がひとまとまりになって、とってもあつかいやすく、成型がしやすいのが特徴です。
実はこの夏休みに、初めて小学四年生の女の子を二人、お教室のゲストに迎えました。その際、この生地を捏ねてうさぎの顔に成型し、目の部分にはチョコチップを使って、かわいいうさぎパンを焼き上げたのです。将来はパン屋さんになりたいという夢を持つ彼女たち。このはちみつ入りの生地のおかげで、未来のパン屋さんの小さな手でも、私が手伝うことはほとんどなく、おいしいパンが出来上がりました♪
そんなはちみつは私が好んで使う手軽な食材の一つなんですが、パン生地の中に直接、加えたり、はちみつバターを作って生地にぬって焼き上げたり・・・とパン作りにはもちろん、大福の生地の中に、はちみつを加えたりもします。また電子レンジで作る「はちみつきな粉飴」は、なつかしい素朴な味がして、疲れた時に一粒食べれば、元気百倍! はちみつパワーにはいつも助けられています。
はちみつは計量がしやすいチューブタイプを常備。生地の色に合わせてはちみつを使い分けたりします。
一番左ははちみつ専門店で買ったコクのあるタイプ。
それにしてもドイツの店頭に並ぶはちみつの種類の多さと言ったら、何を買ったら良いのか迷ってしまうほど。なんとヨーロッパでは「はちみつの歴史は人間の歴史」という言葉があるくらい、最も古い栄養源と言われているそうなんです。今さら語るまでもなく、はちみつはビタミンとミネラルを多く含んだバランスのとれた栄養食品ですから、日ごろから大いに活用したいものですね。
さて本題に話は戻りますが、本家ベックマンは12月8日のニコラウスの日(ドイツではサンタクロースの来る日)までパン屋さんの店先に並びます。秋の夜長、ベックマンと一緒に楽しい時間をお過ごしください♪
ハロウィーンには、はちみつ生地をクッキー型でくりぬいて。